強力取材2025〈阿波の太祖神敬講〉後編

御嶽山の強力

強力ごうりき倉本豊くらもとゆたかさんの紹介で、太祖神敬講たいそしんけいこうの御嶽山登拝(8合目の阿波ヶ嶽あわがたけまで)に随行ずいこうしています。(前編はこちら

午前10時、行場山荘ぎょうばさんそうでの御座立おざたてが終わり、、太祖神敬講たいそしんけいこうは再び登拝を開始しました。

太祖神敬講たいそしんけいこうは10名で徳島から御嶽山に来られていました。夜通し移動してきての今朝になります。女性の3名と、高齢の男性2名は行場山荘ぎょうばさんそうでのお勤めを終えたら、下山しました。

前座まえざを勤める主管しゅかん川添かわぞえ海道かいどう氏と、中座なかざを勤める主管のご子息しそく、書取り役の男性、撮影記録を努める男性、若い男性と、強力ごうりき倉本豊くらもとゆたかさんと私の7名で、8合目の阿波ヶ嶽あわがたけを目指します。

道中いろいろ

倉本さんと知り合ったのは4年前ですが、一緒に御嶽山を歩くのは初めてです!

山の音楽家
山の音楽家

一緒に歩くといっても、
倉本さんの強力ごうりきの荷物は約30kgオーバー、
かたや私は日帰りの軽装備なので面目ないです。

倉本さんは、御年おんとし70歳ですが、、、、、

山の音楽家
山の音楽家

本当に70歳ですか?!
50歳の間違いじゃないですか?
せめて60歳でしょ!笑
こんな何十キロも背負せおって、お話ししながら登ってくれる70歳いる?!

倉本さん
倉本さん

いやもうね、そろそろ限界だよ笑

実際に、いつかその時はやってきます。
御山おやまで倉本さんを見られるのは今しかないかもしれません。

ゆっくり時間をかけて登ります。

川添主管かわぞえしゅかんも相当の年齢ですし、若い方も重そうな荷物を背負っていました。太祖神敬講たいそしんけいこうと書かれた旗も重量あったと思います。

セイタとニンボー

強力ごうりきは、信者さんの緊急事態に対応できるよう、最後尾を歩きます。信者さんのペースに合わせるのも経験が必要です。

時折り、ニンボー(忍棒、荷棒)という一本杖いっぽんづえ背負い板セイタにあてて、立ったまま休憩します。

強力ごうりきは、このセイタと(背負い板)とニンボー(忍棒、荷棒)が必需品です。

倉本さんは大工さんでもあるので、もちろん自作自前じさくじまえです!

倉本さん
倉本さん

身長を見え張っちゃったから、
ニンボーの長さが実は合ってないんだよね笑

と話す倉本さんは、とてもチャーミングでした笑!

休みながら、一歩一歩追従ついじゅうします。

この道50年超えのレジェンド!

倉本さん
倉本さん

自分は本当に恵まれていると思う。
これまで夏の間に一度も怪我をしたことがないから、
毎年御山おやまに来ることができています。

山の音楽家
山の音楽家

それってつまり50年以上、毎年登ってるということですか?!

倉本さん
倉本さん

そう!一年も欠かしたことがない!

山の音楽家
山の音楽家

御嶽山に登らなかった年が一年もないんですか?!
めちゃくちゃす凄いことですよね!
怪我をしない歩き方をしてるってことですし!

倉本さん
倉本さん

支えてくれる家族のおかげだと思う。
感謝しているよ。

私が産まれるずっと前からこの御嶽山に通い続けて、御嶽山を見守ってきた倉本さんに敬意を払います!ちなみに師匠も、ご不幸があった一年を除いて御嶽山へ通うのを欠かしたことがないそうです。2人ともレジェンドすぎる。

登山中あるある

すれ違う登山者、通過する登山者が、みな揃って倉本さん話しかけます笑

女性登山者
女性登山者

わーすごい荷物!歩荷ぼっかさんですか?

倉本さん
倉本さん

私は強力ごうりきをやってます。
信者さんの荷物を運んでいます。

男性登山者
男性登山者

何キロくらい背負っているんですか?

倉本さん
倉本さん

今日は軽いですよ。ウン十キロくらいじゃないかな笑
(昔は50Kg超えでした)

きっとこの会話、毎年、毎日、毎回してると思った笑

もとは一本橋!?

10時55分、中間地点の横橋よこばしを渡ります。ここで倉本さんが面白いお話をしてくれました。

倉本さん
倉本さん

ここは昔は一本橋いっぽんばしという名前だったんだよ。

山の音楽家
山の音楽家

ということはもしかして、木が一本かっているだけの橋だったんですか!

倉本さん
倉本さん

そう!今は横橋よこばしって言って、しっかり橋が渡してあるけどね!

山の音楽家
山の音楽家

一本木いっぽんぎだと渡るの恐いですね!橋が渡されてありがたいです。

今や御嶽山は、登山道がしっかり整備してありますが、整備されていなければ登るのが困難な場所がたくさんあります。先人せんじんの苦労を想い、登山道工事の発展に感謝しようと思いました。

「横橋を渡る倉本さん」

「若手に似組にぐみの助言をする倉本さん」

太祖神敬講の講紋

太祖神敬講たいそしんけいこうのみなさんも休憩されていました。

優しい顔つきの川添主管かわぞえしゅかんは御年69歳だそうです。通過した登山者とも、談笑だんしょうされていて微笑ほほえましかったです。

気になったので、錫杖しゃくじょう先端せんたんについていた講紋こうもんを見せていただきました!

山丸三に「太」の文字が入っています!かっこいいですね!

ここで、雨模様あめもようが強くなってきました。
荷を濡らしてはいけませんし、8合目まで目前だったので、倉本さんと先行することになりました。

8合目到着!

11時40分、ギリギリセーフ?女人堂にょにんどうへ到着です!(少し濡れた〜)

雨の中、12時ちょうどにみなさんも到着されました。

雨が上がるまで、しばし休憩です。

イワギキョウが雨に濡れて綺麗でした。

阿波ヶ嶽へ

12時30分、奇跡的に雨が止みました!

女人堂のおこし信幸のぶゆきさんの案内で、阿波ヶ嶽あわがたけへ入ります!

太祖神敬講たいそしんけいこう霊場れいじょうへ到着しました。

開祖かいそ海信霊神かいしんれいじんと、おとなりに明道霊神めいどうれいじんが祀られています。

山の音楽家
山の音楽家

太祖神敬講たいそしんけいこうでの一番の信仰対象はどなたですか?

川添主管
川添主管

それは海信霊神かいしんれいじんですね。
開祖かいそ海信霊神かいしんれいじんは祖父にあたります。
となりの明道霊神めいどうれいじんは私の父です。

山の音楽家
山の音楽家

祖父君そふぎみとお父君ちちぎみが霊神として祀られているということは
川添主管かわぞえしゅかんは三代目にあたるわけですね!

霊神碑を少し身近なものに感じることができました。
霊神碑とは何か?お墓との違いは?!

登頂の御礼を述べられています。

護摩焚き

続いて、右端に建つ五輪塔ごりんとう護摩焚ごまたきの準備が始まりました。この塔は、声聞縁覚塔しょうもんえんかくとうと言うそうです。中から、台帳のようなものを取り出しました。

川添主管
川添主管

今日この地に来ることができなかった者の
想いをき上げています。

御嶽講はこうした、「登拝が叶わなかった者の想いや願いだけでも御山に連れてくる」といった風習が見られます。

青空も戻ってきました!

阿波ヶ嶽あわがたけと書かれた塔が建っています。

勢いよく、炎が上がります。

霊神御礼

護摩焚ごまたきが終わり、ふたたび霊場の正面で勤行ごんぎょうが始まりました。

先ほどの雨から打って変わって、雲から光が差し込み神々しい場面でした。

般若心経はんにゃしんぎょうや、ご真言しんごんを唱えました。般若心経はんにゃしんぎょうは、講社こうしゃや読む方によって若干じゃっかん言い回しが違うので、毎回興味深いと感じます。

ひとつひとつの霊神碑れいじんひへ正対して、霊神名れいじんめいを読み上げていくのが印象的でした。

〇〇姫霊神ひめれいじんは女性、連名で霊神碑れいじんひに彫られているのはおそらくご夫婦なのだろうと思います。

お勤め修了!

13時40分お勤めが終わり、みなさんは中社なかしゃでお参りとおはらいを受けておられました。

女人堂にて

倉本さんと起さん

14時10分、女人堂にょにんどうへ戻りました。

太祖神敬講たいそしんけいこうのみなさんと、倉本さんはこのまま女人堂にょにんどうに宿泊です。この後も、中で御座立おざたて儀式をされるそうですが、私は下山するのでそろそろタイムリミットです。

川添主管かわぞえしゅかんに御礼を申し上げて、お別れしました。
明日には下山されて、木曽でもう一泊され、明後日に徳島へ帰られます。
2014年の噴火までは、女人堂には2泊して剣ヶ峰まで登頂されていたようです。

倉本さん
倉本さん

下りるの?泊まっていかないの?
残念だね。

山の音楽家
山の音楽家

明日予定があって、、、
装備もないし泣
すみません。
今回もありがとうございました。

倉本さん
倉本さん

こちらこといつもありがとう。
また会いましょう。

御座おざも最後まで見たかったし、もう少しご一緒したかった!最初から泊まりの予定で来れたらよかったのですが、翌日も予定があったため残念です。

随行御礼!

四国の徳島という地から、海を渡って遠路はるばる御嶽山を目指す講社の方々に感服いたしました。山を行楽登山ぎょうらくとざんとしてではなく、修行場しゅぎょうじょうとして、また御礼詣おれいまいりとして登拝目的とうはいもくてきで訪ねるには、並々ならぬ信念が必要だと思います。実際問題、時間も費用もものすごくかかります。

そうしてまで厳しい修行を勤め、気高いこころざしで御嶽山に向き合う川添主管かわぞえしゅかんの姿は本当にご立派でした。

川添主管かわぞえしゅかんはじめ、太祖神敬講たいそしんけいこうのみなさんの信仰心、その信仰を代々受け継いでいる意志の強さ、この目でしっかり拝めてありがたかったです。

太祖神敬講たいそしんけいこう主管しゅかん川添海道かわぞえかいどう氏と、強力ごうりきを勤めた倉本豊くらもとゆたかさんに、改めて感謝申し上げます。

このように撮影や取材に協力いただき、様子を書かせていただける機会は早々ないことだと思います。この度は快く随行取材ずいこうしゅざいさせていただき、本当にありがとうございました!

翌日、みなさん無事下山されたようです。登拝おつかれさまでした!

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