2025年6月7日の土曜日、天気は晴れです。この日私は朝の5時40分に御嶽山6合目にあたる中の湯登山口へ到着しました。
すでに多くの車が駐車しており、登山準備をしている人がほとんどでしたが、その中に、白装束や修験者が幾人か見えました。私も今日はストックや帽子ではなく、自前の金剛杖と桧笠を被ります。

準備をしたところで、見知った白装束の男性を見つけました。
「大鐘さん!おはようございます!今日はよろしくお願いします!」
私があいさつしたのは、大鐘龍昇先達といって、高針心願講の先達さんです。
なんと今日は、大鐘さんの百間滝詣りに随行させてもらうんです!
この[A面]では時程を元に記録しています。
集う修験者たち
メンバーが揃ったようで、大鐘さんを中心に自己紹介から始まりました。私を入れて10人でした。
大鐘先達の滝行なので、てっきり高針心願講の信者さんが主で、女性や若い方もいるであろうと思っていたら、全員男性!
そして信者というよりは、修験者じゃないですか?

それもそのはず、高野山真言宗の住職さんや御嶽行者の方々でした。
これまでSNS等でお見かけしていた方や、逆に山小屋で働いていた頃の私に会っていると話してくださる方もいて、お互い内と外が一致した感覚でした。
みなさんとの交流はB面記事をご覧ください。
06:00 お勤め
まずは出発前のお勤めを、中の湯登山口から少し上がった先のお堂前で行いました。
大鐘先達が、全員の名前を読み上げて、道中の安全を祈願してくださいます。
私の名前も入れてくださっていたので、感激しました。

般若心経を一緒に唱えます。昔、祖母が唱えていたのと同じように、最後の一文を繰り返していたので、なんだか嬉しくなりました。
その後も、不動明王の真言など、分かる真言は一緒に唱えさせていただきました。
06:10 出発
いよいよ中の湯登山口を出発します。
私は大鐘先達に次いで歩くことになりました。これから谷を越えるので一気に下ります。10人が一列になって進みます。

掛け念仏が始まりました。
♪さ〜んげさんげ
♬さ〜んげさんげ (懺悔懺悔)
♪ろっこ〜んしょ〜うじょう
♬ろっこ〜んしょ〜うじょう(六根清浄)

途中、水量の多い沢を越えるのに少し緊張感がありましたが、ギンリョウソウやイワカガミを見ながら小休止を2回とりつつ、軽やかな足取りで進んで行きました。

07:20 百間滝小屋に到着

分岐に差し掛かり、御嶽山が木々の隙間から目に入りました。なぜかそれだけで、泣きそうになってしまう自分。百間滝もさながら御嶽山を見ると何故か涙が込み上げる。これぞ畏れの心。

よく晴れており、御嶽山と百間滝を展望できて、一同は感嘆の声を上げました。離れていながらも響く滝の轟音に、少し緊張感も走ります。

建国姫竜神像の前でお勤めをします。
今回、ずっと法螺貝を吹いてくれた行者さんがいましたが、とてもお上手でした。
これまで色んな方の法螺貝を聞いてきましたし、私も多少は吹くことができますが(私が吹いているホルンと原理は同じなので)この方の吹奏感はとても伸びやかで聴きやすかったです。

幽玄なる滝へ向かう
建国姫竜神像については以前も取り上げていますが(詳しくはこちらニノ池に佇む建国姫龍神とは?!)、ここの石板に掘ってあった一文を新たに紹介します。


“鬱蒼たる森林に抱かれた幽玄地、百間滝”
ですって!「幽玄地」とは、、、奥深くはかり知れないこの百間滝をよく表していると思います。
以前友人が百間滝を「幽滝」と表現したことがあるんですが、まさしくその通りだった!
では!いよいよ幽玄地である百間滝を求めて難所に入りましょう!
07:50 百間滝小屋を出発
少し小屋で休憩を取って出発になりました。ここで、一名が小屋に残ることになりました。
百間滝小屋に金剛杖を置いていくと言われたのを、下り始めて納得しました。百間滝へ行くのは昨年に続き2回目ですが、ハシゴやロープ、両手が使えないと危険な道です。もちろん掛け念仏もできません。

この道は、登山道ではなく、一般人は通ることはできません。強力である倉本豊さんが、修験者や御嶽講の信者さんのために、毎年整備してくださっています。限られた修行者しか通行できず、私もあらかじめ随行許可をいただいて今回参加しました。

慣れた登山者ほど、グイグイ突っ込んで前へ行く人が多いのですが、みなさんの歩き方は経験を積まれた手順でとても安心感がありました。さすがと言うには失礼かもしれませんが、やはり修行者は違います。
ハシゴやロープは、順番に声がけをしながら一人ずつ慎重に下りて行きました。浮石や踏み抜きなどの注意喚起もしっかりされており、感心いたしました。
08:20 岩窟にて


覚明行者の修行地である岩窟に到着しました。
石碑が倒れていたので、大鐘先達を中心に石碑起こし作業が行われました。大鐘先達は御嶽山でも倒れた石碑の修復を進んで実施されています。


石碑や看板の位置を正して、ここでもお勤めが行われました。
白檀のよい香りが漂い、心が浄化されました。


08:40 岩窟出発
大鐘先達が、岩窟にあった金剛杖を3本手に取り「これ1本持っていってくれる?」と私に渡しました。
「滝行用」と書いてある意味は、後で知りました。
さあ、滝の音が近づきます。


山深き、滝を求めて禊なり
昨年も見ているはずですが、その圧倒的な姿に涙が零れました。
きっとここを初めて訪ねた覚明行者も涙を流したと思います。王滝側(清滝、新滝)とちがって黒沢登山道には滝行できる滝がありませんでした。のちに滝行用の人工滝が複数作られているほどです。この百間滝を遠く見つけた覚明行者は、「なんとしてもこの滝へ行かねば」と強く思ったんじゃないでしょうか?
山深き、この百間滝を求めて禊(滝行)を続けたんですね。それが今も続いていると思うと、とても嬉しい気持ちになりました。

08:50 百間滝到着

一同が輝く百間滝を見上げた時、遠く法螺貝が鳴りました。
百間滝小屋に残っていた男性が、私たちの到着を見守ってくれているのが分かりました。
百間滝からも、法螺貝で応えます。(ホルンとは元来からこういう楽器なのです!)

水量は昨年より少し穏やかに見えました。すこし、ほんの少しです。爆流には違いありません。
私はみなさんが滝行支度をする間、しばしあちこち動き回って滝を堪能しました。

少し遠くから眺める。

近づいて見上げる。

赤茶色の岩壁を見つめる。惚れ惚れする。
09:10 滝行開始
私は撮影を許されたので、すこし高いところまで登り、滝全体と皆を写しました。
みなさん、ふんどし一丁で念仏を唱えながら二人ずつ滝へ向かっていきます。

法螺貝の音色と、滝の轟音に念仏が混ざって、厳粛な時間でした。






御嶽山は火山です。溶岩は実はけっこう中身がスカスカなので、水をよく通し溜め込みます。
御嶽山自体が巨大な貯水ダムと言えます。日本最高所の滝(神津滝)や水深13mの池(三ノ池)を有するわけですね。百間滝は、岩盤が水を吸い込み、滝壺があまり大きくならないのが特徴なんです。

だからこそ滝行できるとも言えますが、ものすごい水量が身体を叩き割るがごとくの勢いで落ちてきます。落差40mとはいえ、「百間(180m)」の名を付けた人々の気持ちがよく分かります。

そして、百間滝は滝壺を歩いて滝の直下までいくのに、杖がないととても危険だと分かりました。
滝壺は水の勢いと岩盤の関係かとても足場が不安定に見えます。男性の膝くらいの水量のはずが、下半身全部浸かってるようにみえるくらいの迫力でした。このために、岩窟に「滝行用」の金剛杖が置いてあったんですね。

前に知り合った、覚明行者由来のとある住職さんがこう話しておられました。
「百間滝で修行するためには、そこに来るまでの間にたくさんの修行をしていなければならないんです」
すでに厳しい修行している者しか、百間滝では滝行できないのだ、と私は受け取りました。
今日、それを拝見できただけでも、なんとありがたいことでしょう。改めて今日という日に感謝の思いが込み上げました。
10:00 集合写真のち出発
みなさん無事滝行を終えられて身体の手入れに入ります。身支度が落ち着いたので、集合写真を撮らせていただきました。みなさん達成感あるお顔されています。

10:10 岩窟にてお勤め
再び岩窟まで戻ってきたので、金剛杖を返納し、お礼のお勤めが始まりました。
ここは大鐘先達ではなく、違うお二人が読み上げていました。
あとから聞きましたが、このお二人は百間滝教会の方たちでした。

帰路へ
先頭は、法螺貝を吹いていた男性に交代し、私はその方と合間にお話しながら歩きました。百間滝までは急な下りであったので、もちろんここからは崖に登るがごとくの傾斜です。前後の距離を取りつつ、声掛けしつつ、慎重に登っていきました。

10:35 百間滝小屋へ
百間滝小屋へ帰ってきました。待っていた男性が法螺貝で出迎えてくれました。
小屋にいても、滝行の声はよく響いて聞こえていたそうです。

ここで少し長めの休憩を取り、みなさん食事などされました。お話ししつつ、法螺貝を吹き合い、しばし談笑できてよかったです。私も法螺貝を吹かせていただきました。


11:05 百間滝小屋出発
大鐘先達の後について、帰りはお話ししながら歩きました。実は大鐘先達とまともにお会いするのは今回が初めてでした。これまで顔を合わせた時は、私はただの小屋番で、大鐘さんはお客さまでした。それが今や、個人的に連絡を取ってくださる頼もしい御嶽同志です。

大鐘さんは自らを「御嶽狂い」だとおっしゃいました。私も同感ですし同意しました。いろいろお話しできてよかったです。今後もまた会いましょうと、固くお約束できました。
12:25 中の湯登山口到着
無事全員が元の場所へ帰りました。みなさん満足げな疲労感でした。滝行では、体力も消耗するし身体もそうとう冷えるはずです。逞しいなと改めて実感しました。

12:40 最後のお勤め
最初にお勤めをしたお堂まで進み、満願のお勤めを行いました。先達に指名されて高野山真言宗の男性が行いました。それぞれ言い回しなどが微妙に違うのも楽しめました。

12:50 解散
ここで今日の百間滝詣りは終わり、一同解散しました。ここで再会できた方、初めて出会えた方、今日の出会いに感謝いたします。名残惜しいながらも、それぞれお別れしました。

大鐘先達始め、みなさまありがとうございました。
新たな御嶽同志ができたことに喜びを抑えつつ、私はこの後御嶽山へ向かうのでした…..!
この百間滝詣りの様子をもっと詳しく見たい方は、続きの〔B面〕をご覧ください。
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