御嶽遭難史に残る”石小屋”とは?!

木曽の御嶽山の話

御嶽山の黒沢ルートの9合目に、【石室山荘いしむろさんそう】という山小屋があることはご存知だと思います。
今回はその【石室山荘いしむろさんそう】のルーツを辿りました!

ナナカマドが映える秋の石室山荘

御嶽遭難史とは?

生駒勘七いこまかんしち著の「御嶽の信仰と登山の歴史」という本に御嶽遭難史おんたけそうなんしという項目があります。

明治以前に3000m級の高山へ一般の人が登山するということは、富士山を除いて、ほかにそう例はなく、その高山で大量遭難があったといった記録の残っている例はきわめて少ない。御嶽には山頂その他で死亡したという記録が残っており、これは全国的にみても数少ない例ではないかと思われる。

「御嶽の信仰と登山の歴史」(生駒勘七)

書いてある通り、この遭難記録がそもそも珍しく、当時の御嶽山を知る上で重要な手がかりとなっています。この記録の中に、”石小屋“という興味深い単語がありました!なんとそれが【石室山荘いしむろさんそう】のルーツのようなので、張り切って紹介したいと思います!

通り抜けられる造りになっています

1847年には存在した!

弘化4年の遭難記録から要約します。明治以前の、江戸時代の話になります。

遭難記録①
弘化4年の7月、松本の御嶽講員7名が御嶽に登ったが、悪天候により5名が死亡するという事故があった。7名は田ノ原から王滝ルートを辿り山頂を目指した。そして下山は黒沢ルートを歩いていたが、山頂直下で天候が急変、暴風雨で行動不能になったそうだ。そこで1名が命を落とし、1名が助けを求めに“石小屋”で薬をもらったが、戻った時にはさらに4名が死亡していたそうだ。
霧がかかるとより絶壁感が出る石室

この“石小屋”について生駒勘七いこまかんしちが以下のように述べていました。

黒沢口の石室は、弘化4年の遭難死事件の記録に石小屋として出ており、このころすでに管理人が定住する休泊小屋としての施設を整えていたようであるので、その創設はこれよりもっとさかのぼるものと推定される。

「御嶽の信仰と登山の歴史」(生駒勘七)

もちろん、“黒沢口の石室”とは、現在の【石室山荘いしむろさんそう】のルーツに当たります。名称がややこしいため、以下の表記は【石室の小屋】と統一します。

あれ?もしかして・・・!

そしてこの“弘化こうか4年”という年号が最も重要になります。弘化こうか4年とは1847年のことです。いわゆる幕末と言われるのは1854年以降を指しますので、幕末以前から【石室の小屋】は存在したという記録になります!

・1792年以前は、6合目より上に休泊小屋ない
・現在の石室の位置に小屋ができたのは、1792-1847年の間(約50年)である
・この頃、女人堂の位置は現在の8合目ではない
西暦和暦6合目7合目8合目9合目石室
1792-
軽精進許可
寛政4年×××
1847
遭難記録①
弘化4年××
1854-
幕末
安政元年×
1860
遭難記録②
万延元年
1868明治元年
小屋の推移の考察

上記によって、【石室の小屋】は最も古くからある山小屋だということが分かりました!

女人堂は、御嶽の山小屋の中で最も歴史が古く、明治初年から 山小屋として営業しています。

女人堂ホームページhttps://ontake-nyonindo.jimdofree.com/女人堂紹介より

「じゃあ、女人堂のホームページが間違っているの?」と思いますよね?
いえいえそんなことは決してありません!

女人堂から見る石室

さて!ここまで調べたところで、そろそろ女人堂と石室について整理したいと思います。
更新をお待ちください!

「御嶽の歴史」(生駒勘七)
「御嶽の信仰と登山の歴史」(生駒勘七)

おまけ『石室小屋』-1860年-

おまけにもう一つの遭難記録を紹介します。こちらは1860年の記録です。こちらはまさしく幕末時代に起こった事故と言えます。

遭難記録②
万延元年7月に、松本から8人が王滝口から登った。8人は黒沢口の石室小屋に泊まる予定であったが、天候が急変。王滝口の避難小屋である石小屋へ避難した。翌朝、一行は再度頂上を目指したが、悪天候で道に迷い3名がはぐれてしまった。石小屋から救援を頼んで探しあてたところ、1名は全快したが2名は亡くなってしまったようだ。
王滝側の石室避難小屋

この頃には、王滝口の石室避難小屋がすでにあったようです。
そして、黒澤口の“石小屋”は“石室小屋”と記載されています。
〔石小屋→石室小屋→石室山荘〕へと徐々に名前が変化していったことが分かりますね!

弘化4年石小屋
万延元年石室小屋
令和6年現在石室山荘

現在の名前にいつ頃変わったのかは、石室山荘のご主人に尋ねてみます!

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