質問!強力(ごうりき)って何ですか?!

御嶽山の強力

強力ごうりき】とは、信者さんから預かった荷物や、荷主から依頼された物資を運搬する仕事です。役職や地位ではなく、蔵人のような季節労働者と同じなんですよ。

倉本豊さん

そう話して下さったのは木曽町に住む大工の倉本くらもとゆたかさん(68)です。
木曽きそ御嶽山おんたけさん】で【強力ごうりき】というお仕事を、かれこれ50年近く請け負っていらっしゃいます。
倉本さんは『御嶽山の最後の強力ごうりき』とも言われています。
正直とても68歳とは思えない程に若々しい男性で、いつも年齢を10歳若く勘違いしてしまう程です。
そんな倉本さんから聞かせていただいた貴重なお話を、【強力ごうりき】の紹介と共にを残したいと思います。

強力(ごうりき)とは、登拝する信者に同行し、案内や荷物のかつぎ手をする人の名称です。
どちらかというと案内が主な役割で、以前いざ【百間滝】滝行へ随行!した際も、荷物は背負わず、登山道の整備をしながら道案内をされていました。天候や登山道の状況、信者さんの健康状態を見て、登拝できるかどうか、続行するかの判断もしているんだそうです。
このような意味合いでは、山小屋へ物資を荷上げをする歩荷ぼっか持子もちことは全く異なる存在だと言えます。

そして、登拝に不安がある信者さんの荷物を一手に引き受けるのも【強力ごうりき】です。何十人分もの荷物を背負って登拝に随行するのです。時には体調不良者や、小屋番の荷物運びも手伝う倉本さん。80kgほど担ぐ時もあったそうですが、荷物そのものの重さ以上に、『もっと大事なおもい』を背負っていると話してくださいました。背負うのは荷物の重さ(おもい)ではなく、登拝したい、荷物を届けたい、という想い(おもい)を運ぶんだといいます。

「おもい」を担ぐ倉本さん

「自分の体力では御山おやま(御嶽山)に登拝できるかわからない。
 それでも、荷物だけでも持ってもらえたら、、可能かもしれない。なんとか自力で登りたい」
という信者さんの想い。
「必要な物資を何とか届けたい」と言う願い。
そんな目には見えない人々の想いや願いを運ぶのが強力ごうりきの仕事です。

倉本 豊

これを見返りや称賛を求めず、自然とできる倉本さんは、本物の強力ごうりきさんだと感じました。信者さんからも、小屋や神社からも「倉本さんになら是非」と言ってもらえる、まさしく真の【強力ごうりき】なんでしょう。

強力ごうりき】は、時代とともに減少しています。
かつては信者さんも多く、一つの講社に数名の【強力ごうりき】が同行することもあったそうです。そうした場合だと、「熟練が若手に教育」ということが可能でしたが、現在は個人や家族単位からの依頼に移行してきているようです。
そのため倉本さんは「直接現場で後輩へ教える機会が今はない」と話されていました。

そんな現代ですが、【強力ごうりき】をしている若者もいます。
私の友人は、神社からの依頼で三の池の御神水ごしんすいを汲む仕事や、山小屋への荷上げをしつつ、ここ数年で信者さんから【強力ごうりき】の仕事を請け負うようになったようです。他の山の歩荷ぼっか姿を参考にしたり、背負い板せいたへの荷組みの仕方や縛り方、背負い方などを倉本さん始め先人たちから学び、謙虚に取り組んでいます。そして何より御嶽山を愛しているのが伝わる人柄で、頼もしい御嶽同志です。
(先日、彼の強力ごうりき見学をさせてもらう機会を得たので、また後日紹介いたします!)

強力ははたから見たらカッコよくて、目立つ存在かもしれませんが、これ見よがしに、やる仕事ではないです。人間だれも地道に経験や実績を積めば、自分からアピールしなくても他人様が認めてくれるようになります。
これから強力という仕事をしようとする人は、そこを焦って上塗りを重ねてると、薄っぺらい器になっちゃいますよね。
昔からの信者さんや御嶽講を、そんな強力が対応するとなると、摩擦が起きることもあるでしょうね。

倉本 豊

実際にそんな強力ごうりきに対しては、違和感を感じる方が私以外にもいるようです。
先ほど紹介した友人も、「すごいのは人(強力ごうりき)ではなくて御山おやま御嶽山おんたけさん)です」と、あくまで御嶽山中心の考え方をしています。

お金や称賛目当て、目立ちたいという気持ちで強力ごうりきは決してできませんし、もてはやされる存在ではありません。
まずは御山おやま御嶽山おんたけさん)、そして信者さんや依頼主ありきなんです。
強力ごうりきは、人や物に対しての謙虚さが何より必要で、目立ってはいけない立場なんです。私はいい時代に強力ごうりきという経験をさせていただきましたよ。
大神おおかみ様に感謝です。

倉本 豊

私も倉本さんの気持ちを汲んで、強力を静かに次の時代へ繋ぐお手伝いができたらと感じました。貴重なお話を聞く機会をいただき、感謝いたします。

倉本さんの荷物(セイタとニンボー)

倉本さんは「今年も無事に登拝したい」という信者さんの想いと、荷物の重さという二つの『おもい』を背負って、今日も御山おやまへ上がっていることでしょう。

参考文献
「御嶽の歴史」(生駒勘七)
「御岳山 霊なる山の素顔」(信濃毎日新聞社)より

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