第5回 拍手の話と演奏記録Ⅴ【2021御嶽山小屋番記録】

 私はこれまで演奏家という仕事をしてきました。拍手が当然のようにもらえる仕事です。
 不思議なことですが、ステージや、演奏会という空間の中であれば、拍手は絶対もらえるのです。
 演奏が多少うまくいかなくても、とにかく拍手は絶対起こる。

 それが礼儀、マナーでもあるからです。

 これが、外で勝手に演奏するとなると、全く違う。
 拍手どころか、聞くも聞かないも、登山者の自由。そう自由なんです。

 だから、演奏会のように、拍手の義務みたいなのはありません。私はこの自由さが好きです。
 それでも、拍手をくれる方はいます。その方は、拍手したくて拍手してくれるんです。

 こんな嬉しいことはありません。
 その拍手は、演奏会でもらえる当然の拍手とは全く違う価値に感じます。

 ホルン演奏記録Ⅴ
 日時:9月28日(火) 朝、夕方
 場所:小屋前 及び ヘリポート
 曲目:ほら貝
    即興ファンファーレ
    椰子の実
    もみじ
    今日の日はさようなら
    赤とんぼ
    庭の千草
    里の秋
   「奇跡の絶景」テーマ曲

 この時期、やたらホルン吹く時間もらってたと思います。
 どうしてかというと、小屋の女将の采配で小屋の一階の空き部屋に、
 ホルン置かせてもらっていました。

 今までは、2階の端っこの自室に取りに行ってたんですが、一階の空き部屋というのは厨房の真横です。このお陰で、10分くらいの小休止でも楽器が吹けるようになったんです。

 やったーー!というわけでこの日は1日3回も楽器吹いてました。

 不思議です。職業演奏家だった時は、休憩というと練習を止めるんですが、小屋では休憩でホルンを吹きに行く。

 でもこのおかげで気持ちの切り替えがうまくいきました。楽器を演奏することで、自分のアイデンティティが保たれていると、よくわかりました。

 改めて、小屋の女将や先輩に感謝ですね。

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